中学生が書いた作文「リア充ニモマケズ」が泣ける

2022 12/14

2022年12月14日

2017年にTwitterのタイムラインで、突如投稿されたポエムが話題を呼びました。その名も「リア充にも負けず」です。今回はこの作文について注目し、紹介していきます。

「リア充にも負けず」とは？

「雨ニモマケズ、風ニモマケズ…」で始まることでお馴染みの宮沢賢治作「雨ニモマケズ」を文字って「リア充にも負けず」と題したのが、とある中学生の卒業文集の作品です。学校での「名作のパロディ詩を作る」という授業で制作されました。作者の姉であるさわわさんがTwitterで画像を投稿したことから話題になりました（現在は元の投稿は削除されてしまいました）。

リア充にも負けず（by 池崎理人）

カップルにも負けず
クリスマスにも負けず
夏祭りにも桜の切なさにも負けず
丈夫な心を持ち
嫉妬はなく
決して彼女の募集はせず
いつも一人で　耐えている
東にクリスマスイルミネーションあれば
行って　一人で楽しみ
南に桜の美しい花見があれば
行って　一人で楽しみ
北に恋愛映画あれば
行って一人で楽しみ
切ないときは　アニメを見て
楽しいときも　アニメを見て
みんなに　キモヲタと呼ばれ
ほめられもせず
必要にもされず
そういう独身男性に
わたしはなりたくない
幸せになりたい
さわわさん

その作文は、恐らく受験生であると思われる立場の作者が非リア充と自分を重ね合わせて、リア充に嫉妬などせずに1人で季節のイベントごとを楽しむ…『そういう独身男性にわたしはなりたくない　幸せになりたい』と締めくくっています。

原作では、境遇を受け入れる締めくくりなのですが、この作文では最後がオチとなっており、且つ涙を誘う構造になっているところに、心を揺さぶられる読者が多くいました。

「非リア充が勇気付けられる作文。」や「文才がすごい！センスがある！」、「強く生きろ…」「最後の一文が刺さった」などといったコメントが寄せられ、その弟がどんな人なのか知りたいという人が出てきたほどです。

「リア充にも負けず」の作者

ツイート投稿当時、さわわさんの弟とだけしか情報がなかった作者ですが、最近になってある情報が浮上しました。

日本の人気男性アイドルグループであるINIのメンバーの1人である池崎理人さんがこの作文の作者だということです。

池崎さんは、同志社大学を受験するために、福岡県の進学校である八幡高校に通っていました。偏差値62～65という難関校への受験のため、当時中学3年生だった池崎さんは、将来の自分に対する応援歌のようなつもりでこの作文を書きました。現在は人気グループに所属していますから、この作文に書かれているような大人になるのは回避できたと言えるでしょう。

原作「雨ニモマケズ」について

雨ニモマケズ　風ニモマケズ　雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ　丈夫ナカラダヲモチ　
慾ハナク　決シテ瞋ラズ　イツモシヅカニワラッテヰル　
一日ニ玄米四合ト　味噌ト少シノ野菜ヲタベ　
アラユルコトヲ　ジブンヲカンジョウニ入レズニ　ヨクミキキシワカリ　ソシテワスレズ　
野原ノ松ノ林ノ蔭ノ　小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ　
東ニ病気ノコドモアレバ　行ッテ看病シテヤリ　
西ニツカレタ母アレバ　行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ　行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ　ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒドリノトキハナミダヲナガシ　サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ　ホメラレモセズ　クニモサレズ
サウイフモノニ　ワタシハナリタイ
宮沢賢治

「雨ニモマケズ」は、文豪宮沢賢治が亡くなった後に見つかったメモから作品となった遺作です。小学生の国語の教科書にも掲載されているので宮沢賢治の代表作品として幅広い世代に知られています。カタカナと漢字で構成されているこの文章は詩のカテゴリに分類されます。「サウイフモノニ／ワタシハナリタイ（そういうものに私はなりたい。）で締めくくられるこの詩は、最後まで主語が明かされません。

1931年、宮沢賢治が仕事中に病に倒れ、岩手県の花巻町にある実家で闘病していた際に黒い手帳を使用していました。そこに「雨ニモマケズ」を始めとした彼の未発表作の数々が書かれていました。166ページに渡るこの手帳には、宮沢賢治の自省の念と願望が綴られていました。しかし、この手帳の存在は家族にも知られていませんでした。

1934年に宮沢賢治が亡くなり、「宮沢賢治友の会」が開かれましたが、その際に何者かがこの手帳を発見し参加者に回覧したのが、「雨ニモマケズ」発表への第一歩だったということです。

「雨ニモマケズ」には、当たり前ですが賛否両論があります。哲学者である谷川徹三氏は、テーマという側面からこの詩を高く評価し、宮沢賢治を偉人と評しました。しかし、詩人の中村稔氏は、宮沢賢治の立場を考慮した上で、「ふと書き落とした過失ではないか」と批判的な意見を述べています。

この二者が、雑誌や文芸誌にて度々自らの持論を主張していたことから「雨ニモマケズ論争」として世間に広まりました。

「雨ニモマケズ」の文学碑が、日本各地に存在している点から、この作品が広く愛されていることがわかります。

「雨ニモマケズ」のパロディは他にも

「雨ニモマケズ」のパロディを探していると「雨ニモアテズ」という詩が見つかりました。

雨ニモアテズ　風ニモアテズ　雪ニモ　夏ノ暑サニモアテズ
ブヨブヨノ体ニ　タクサン着コミ　意欲モナク　体力モナク
イツモブツブツ　不満ヲイッテイル
毎日塾ニ追ワレ　テレビニ吸イツイテ　遊バズ　
朝カラ　アクビヲシ　集会ガアレバ　貧血ヲオコシ
アラユルコトヲ　自分ノタメダケ考エテカエリミズ
作業ハグズグズ　注意散漫スグニアキ　ソシテスグ忘レ
リッパナ家ノ　自分ノ部屋ニトジコモッテイテ
東ニ病人アレバ　医者ガ悪イトイイ　
西ニ疲レタ母アレバ　養老院ニ行ケトイイ　
南ニ死ニソウナ人アレバ　寿命ダトイイ　
北ニケンカヤ訴訟（裁判）ガアレバ　ナガメテカカワラズ
日照リノトキハ　冷房ヲツケ　ミンナニ勉強勉強トイワレ　
叱ラレモセズ　コワイモノモシラズ
コンナ現代ッ子ニ　ダレガシタ
作者不明

これは、岩手県盛岡市の小児科医である三浦義孝氏が学会で発表したもので、作者は不明です。外ではあまり遊ばずに、テレビにかじり付き、いつも何かにつけて不満を言っている、軟弱な現代の子供たちに対する辛辣な内容の詩です。この詩は、モンスターペアレンツを揶揄するような「コンナ現代ッ子ニダレガシタ」という一文で締めくくられます。

大人が常に先回りして、子供が立ち向かう困難に前もって対処してしまうことの問題点についても触れているような、過保護な親を攻める内容になっています。

インターネット上には、その他にも「雨ニモマケズ」のパロディがいくつか存在しており、原作の広がり具合が伺えます。興味があれば調べてみてください。